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Research

スピントロニクス (Spintronics)

電子には,電荷(電流を流す性質)とスピン(磁石になる性質)の二つの物理的性質があります.
エレクトロニクスの発展を牽引している半導体工学では電子の電荷のみを取り扱うことに対して,
スピントロニクスでは電荷のみならずスピンを積極的に利用するところが特徴です.
つまり,スピントロニクスとは,「磁石の性質を利用する次世代エレクトロニクス」です.
本研究室では,鉄シリサイド(Fe-Si)と呼ばれる材料をベースに新規スピントロニクス素子の創製に努めています.


磁化反転 (Magnetization Switching)

スピントロニクスにおいて,最も重要な物理現象の一つに,強磁性金属層の「磁化反転」が挙げられます.
下図の左に示すような反平行配列(Anti-Parallel)の場合は,両方の強磁性金属層で「スピン依存散乱」が起こるため,
電気伝導率が下がり,電気抵抗が高い状態になります.
一方,下図の右に示すような平行配列(Parallel)の場合は,片方の強磁性金属層ではスピン依存散乱が起こりますが,
もう片方の強磁性金属層では電子が通過しやすく,電気伝導率が上がり,電気抵抗が低い状態になります.
また,この強磁性金属層の磁化が回転することを「磁化反転」と呼びます.
個人的には,この「磁化反転」と「スピン依存散乱」が,
スピントロニクスで最も基本的かつ重要な物理現象であると考えています.


本研究では,以下に示す通り,大きく分けて
【A】Application
【B】Basic Physics
【C】Challenging Stage
【D】Dream Device
の四つの観点から研究に取り組んでいます.
それぞれの意味は,【A】【B】【C】【D】の頭文字にあてはめて私が勝手に名付けたものであり,
本研究内容をわかりやすく整理するための文言ですので,決して広く一般的に用いられている分け方ではありません.

【A】Application

【A-1】CPP-MR
既に実用されているHDDの磁気ヘッドの基本原理となりますが,
人工格子の膜面直方向に電流を注入するCPP(Current-Perpendicular-to-Plane)法によって,
磁場印加による磁化反転制御およびMR比の観測に努めています.

【A-2】Current-Induced-Magnetization-Switching (CIMS)
実用段階と言われているSTT-RAMの基本原理となる電流注入磁化反転制御(CIMS)の研究にも取り組んでいます.



【B】Basic Physics

【B-1】Magnetization Switching by Temperature
温度変調によって,非磁性スペーサ層である半導体FeSi2の電子状態を制御することで,
磁化反転を誘起できるような磁化反転制御の独特な手法に取り組んでいます.

【B-2】Magnetization Switching by Irradiation
温度冷却によって,ドナー準位あるいは価電子帯に収束された電子に光を照射することで,
再度伝導帯への励起を促し,反強磁性結合を回復するような光による磁化反転制御を期待しています.

【B-3】Magnetization Switching by Pressure
圧力印加によって,温度変調同様に半導体層の電子状態を制御することで,
磁化反転を誘起できるような磁化反転制御にも将来取り組みたいと考えています.



【C】Components of Spin Device Technologies

【C-1】Electrical Spin Injection
【C-1-1】Local 2-Terminal Spin Valve Effect
局所配置型スピンバルブ効果を利用することで,
非磁性金属中あるいは半導体中に電流を伴ったスピン流(スピン偏極電流)を,
電気的に注入して検出することに取り組んでいます.

【C-1-2】Non-Local 4-Terminal Spin Valve Effect
非局所配置型スピンバルブ効果を利用することで,
非磁性金属中あるいは半導体中に電流を伴わないスピン流(純スピン流)を,
電気的に注入して検出することに取り組んでいます.

【C-1-3】Non-Local 4-Terminal Hanle Effect
非局所配置型スピンバルブ効果の構造に,面直方向に磁場を印加することで,ハンル信号を観測し,
電気的スピン注入の決定的な証拠を得るとともに,非磁性層のスピン拡散長を算出したいと考えています.

【C-2】Pure Spin Current-induced Magnetization Switching
非局所配置型スピンバルブ効果の構造で,注入する電流を掃引することで,
純スピン流に仕事をさせる純スピン流磁化反転に取り組んでいます.

【C-3】Spin Hall Effect
スピン軌道相互作用によって曲げられたスピン偏極電子(スピンホール効果)を電気的に有効利用することで,
スピントロニクスならではの電子デバイス技術に寄与したいと考えています.

【C-4】Spin Pumping
スピンホール効果のさらに後になりますが,スピンポンピングにも将来取り組みたいと考えています.



【D】Dream Device

【D-1】Spin Transistor
「ベース電流あるいはゲート電圧によってトランジスタの静特性を制御する技術」
「強磁性金属の磁化方向を反平行状態(AP)/平行状態(P)に制御する技術」
「スピン偏極電子を強磁性金属中から半導体中へ電気的に注入して検出する技術」
を集約して,スピントランジスタの基礎研究に挑戦したいと考えています.

【D-2】Spin Circuit
「非磁性層に純スピン流を生成する技術」
「純スピン流磁化反転制御技術」
を集約して,スピン流回路の基礎研究にも挑戦したいと考えています.

【D-3】Photo Gate Voltage

【D-4】Optical Spin Current Control

最終的には,スピンバルブ効果やスピンホール効果を利用して,また,鉄シリサイド半導体の特性を活かして,
独創的な「鉄シリサイド半導体スピンデバイス (beta-FeSi2 Spin Device (Thermally, Optically, Pressured)」を,
創製したいと考えています.



Ken-ichiro Sakai
Department of Control and Information Systems Engineering,
National Institute of Technology (KOSEN), Kurume College

Last Updated 2022/4/28